見直しませんか?あなたの対応

長野市民病院  診療放射線科    鈴木 隆
(産業カウンセラー、 キャリア・コンサルタント)


放射線に対して不安をもっている患者さまから「この前も写真を撮ったのに、こんなに写真を撮って大丈夫なものですか?」と訊かれた時にあなたならどう答えますか。

@ 「大丈夫。大丈夫。問題ないから安心して。」と応える。

A 「この前は、何のために撮ったのですか。・・・今回は、・・・。」と今回の撮影の必要性を説明する。

B 「○○の撮影はこの程度の被ばくをします。これによって何か不具合を生じることはありません。」と撮影によって不具合を生じることがないことを説明する。

C 「この検査を受けないことで病気の発見が遅れる可能性がある。」などと、検査を受けないことで被る不利益を説明する。

D 「X線検査を受けることに何か不安があるのですね。」と相手の気持ちを受け止める。

@と答えたかたはいないと思いますが、はっきり言って最低です。自分がもしそう応えられたら安心できますか?何が大丈夫なのかますます不安で、でもそんなこと聞いたらバカにされるようで腑に落ちないまま検査を受けることになるのではないでしょうか。たとえば、「儲け話があるけど一口のらない? 大丈夫、大丈夫、○○が大丈夫だと言っているから。」といった儲け話にあなたはのりますか。疑わしいと思い断るのではないでしょうか。@の答え方は放射線の知識のほとんど無い、放射線に対して悪いイメージしか持っていない患者さまに、何が大丈夫なのだろうかとかえって不安を与えてしまうことになります。

放射線技師は放射線の専門家ですので、専門的な立場からABCの答えをしがちです。私自身も以前は時に応じてABCを使い分けて応えていました。

ここで、不安ということだけに焦点をあてて、心の専門家のカウンセラーならどの答えを選ぶか考えてみたいと思います。カウンセラーはDの不安に思う人の気持ちを受け止めることを最優先します。理由は、不安な気持ちを受け止める、あるいは不安な気持ちに寄り添う、その結果不安に思う人の中に何らかの気づきが生じることを待つためです。そのためには話している相手の話をじっくり聴いたという事実が必要です。不安な気持ちをしっかり受け止めることで、不安に思っている人に自分の気持ちを理解してくれる人がそばにいるという安心感が生まれます。場合によっては、その安心感とともに不安を持った人に何らかの気づきが生まれ、その結果不安な気持ちにも変化が生まれ、不安感が無くなる人もいます。これがカウンセリング効果です。

また、不安な気持ちを受け止めた後に、どんなことが不安なのか聞いてみると漠然としていた不安な気持ちが整理され、より具体的にこんなことが不安だと答えてくれる可能性があります。そこでは、不安に思っていることにだけ答えればよいので、我々は専門家ですから話の焦点を絞ることが出来ますし、不安を抱えている人も自分の知りたい情報だけが入ってくるので、理解しやすく不安は解消されやすくなるはずです。また、患者さまの不安に思っていることだけに焦点を当てて答えればよいのであって、必要以上に説明すると、かえって混乱を招き新たな不安が生まれる可能性がありますから、その点は注意が必要です。

「必要な時に、必要なだけ説明する。」これはインフォームドコンセントの基本だと思います。

このような対応をするためには、時間と場所が必要です。本来、会話の邪魔になるようなものが入らない、落ち着いた環境の中で、お互いゆとりを持った状態でないと、話をじっくり聴いて相手の気持ちを受け止めることはなかなか出来ません。忙しい日常業務の中、しかも検査室の中では、心配を抱えている人も落ち着かず、我々も仕事が滞ることが気になってしまうので、このような対応はなかなか出来るものではありません。しかしながら、一人でも多くの患者さまが不安を抱えることなく検査を受けることが出来たら、なんとすばらしいことでしょう。それがあなたの対応しだいで、実現できるかもしれません。


ここで放射線治療室での場合を考えてみようと思います。

基本的な対応にかわりがありません。しかし、放射線治療室は患者さまが本心を吐露する可能性が高い、つまり対応の重要性を感じざるを得ません。

@ 放射線治療室のほとんどに迷路があり、隔離された・密室性を感じるから。

A 毎日ほとんど同じスタッフに対応してもらえることによる、信頼関係の成立があるから。

B 不安な気持ちがそれ以外の要因を跳ね飛ばして、尋ねる行動を奮い起こさせる可能性があるから。

などなど、検査室での質問の時以上に不安な気持ちが強い状態であることを考えると、無視することは泣いている子供を足蹴にするようなものです。

子供が泣いてきた、そんな時皆さんはどうしますか?

基本的にそんな時はただ抱きしめてあげるのではないでしょうか?それが安心感を与え、不安を取り除く一番の方法だからです。そのあと、気持ちを共感するため、「こわい?」「いたい?」と気持ちを共感し、「どうしたの?」と調査的に原因を訊くのではないでしょうか?
 この順番がくるうと余計泣いたりしませんか?私自身その順番が反対になり良く泣かしています。
 患者さまに抱きつくことは出来ませんが、不安な気持ちを受け止めてあげることは出来るはずです。

 まじめな人ほど、答えてあげようとしがちです。 また、うそがつけないという気持ちも強く、そのため自己防衛のために、シャットアウトしてしまいがちです。それで、患者さまとの信頼関係は築けるのでしょうか?

 患者さま自身、本当に答えを求めているのでしょうか?

 その辛い気持ちを受け止めてあげることが大切で、「お辛いのですね。」とか「不安なんですね。」とか気持ちを受け止めた後、答えられることであれば、答えればよいし。答えられないことは、診察の時に訊くように勧めればよいと思います。 とにかく、気持ちを受け止めてあげること、これに尽きます。

では、具体的にどのように対応すれば、相手の気持ちを受け止められるのでしょうか。

その前に、この文章では、『聴く』と『聞く』使い分けています。

『聞く』は字のごとく耳で聞く。あたりまえです。

『聴く』は『耳』と『目』と『心』を『(+)』あわせて聴くときに書きます。

その違いを感じながら、読んでいただけるとありがたいです。


それでは、具体的な対応です。

@ 話を聴く体制、正面に向き、相手からむやみに視線をそらさない。特に視線を横方向にそらすと、聞き手の関心が他に移ったと感じるものです。

A 相手の話を肯定的に聴く。(相手の気持ちを受け止めるのに、否定的に聴いたのでは相手の気持ちを受け止めることなんて出来るはずがありません。)

B 話そうとしている相手の話の流れを妨げない。つまり、むやみにこちらの意見を言ったりせず、話にあわせて「はい」「うん」などの簡単な「あいづち」や、「うなずき」をしながら注意深く話を聴く。

C 「不安だ」「辛い」「悲しい」「うれしい」などの感情の言葉は、ひとまず「オウム返し」する。(自分の感情を聞き手が繰り返すことで、相手は「自分の気持ちを分かってもらえた」という安心感を持つ。)

D 話の中に事柄と感情の結びつきを感じたらそれを伝える。(「○○だから△△なんですね。」あるいは、「△△と感じるのですね。」)ただし、あせりは禁物です。タイミングを間違えると、丸め込まれたと反感をもたれるかもしれません。

E これで感情と事柄が結びついたのですから、その事柄に関して説明し納得されれば、解決されるはずです。もし、相手に否定された時は、謝罪して話の内容を修正し、相手に話を続けてもらい、別な糸口を探せばよい。

@はそばにいる誰かとすぐに体験できることです。すぐに体験してみて下さい。話を聴く時の自分の癖が分かるものです。Bは友達に相談にのってといわれた時は特に有効です。相談に乗ってといわれると答えたくなりますが、答えは自分自身が決めるもので、他人が決めたレールに乗って失敗した時の後悔ほど悲しいものはありません。DEの対応は上級です。話を聴く経験の少ない方はやらない方が良いと思います。むしろ、放射線治療室・検査室の対応ですから、Cまでの対応で充分だと思います。

ご自身の対応をもう一度振り返っていただき、自分が患者さまの立場であったらどう感じるだろうと、考えてみていただきたいと思います。もしかすると、思わぬ自分自身に気づくかもしれません。結構、患者さまのためといいながら、自分にとって都合の良いように対応しているものです。

誠実な関心・相手を全体として理解しようとする姿勢を持って、患者さまと言葉のやり取りをしながら相手の反応を察する。態度や言葉の抑揚など非言語の部分を大事にしながら、相手が今、どんな気持ちでいるのか感じることを日々の業務の中で取り入れてみることは、そんなに難しいことではないと思います。

「正確で適切な検査・治療」+「相手を思いやる気持ち」=「あなたと患者さまの信頼関係」
放射線技師と患者さまとで作り上げる信頼関係が生まれれば、結果的に良い検査や治療につながると私は信じています。

この文章は、長野県放射線技師会雑誌『会報』136の13−14ページに掲載されたものに放射線治療室での対応を加筆したものであります。