あなたなら、どのように対応しますか?


先日、認知症なのか?とにかく病棟での問題行動の多いといわれていた患者さま(Aさま)の放射線治療をする機会があり、改めて患者さまの立場でものを考えることの重要性を経験いたしましたので、ご報告させていただきたいと思います。

治療前に得ていたAさまの情報
@ 下咽頭がんにより、食事の経口摂取が出来ない。
A 点滴により栄養補給をしているが、数回自己抜管した。
B 夜間、家に帰るといっては廊下の棚を開け何か探していることがたびたびある。そのため、夜間は眠剤を使って休んでいただいていたようです。
C MRの検査時体動が多く、最終的に頭頚部用のコイルから抜け出たため、1シーケンスしか撮像できなかった。
D 理解できているかどうか判断しかねる。
E 以上のことから、術後管理が厳しいと考えられたため、ダメもとでよいから放射線治療してほしいということでした。
F そのためか、日中は奥様がずっと付き添って院内を車椅子で移動する姿が目撃されていました。

放射線治療医は、放射線治療は可能だと思っていたのか?1日2GyのTotal60Gyという根治目的のオーダーでした。
自分自身数年前であれば、計画時にシミュレーターにのせて動きが多いようであれば断るか。どうしてもとなれば、眠らすか、固定をがっちり行うか、・・・。とにかく、治療台からの落下事故だけは防ぐ。これを第一に対応策を考えたと思います。

2005年産業カウンセラーの講習会に参加してメンタルヘルスの勉強をしたので、本当に認知症?的なのかとにかく自分があってから考えようと思いました。当然、上記に書いた対応策に対する準備も視野に入れつつ。初めて会うときの対応を頭の中でシミュレーションしました。そして以下に、実際行った手順を示します。特に注意したのは@そしてAです。

@ まず、挨拶する時にAさまが自分を意識の中に入れてくれるように、Aさまの視線の中に自分が入るようにAさまの顔の高さより低い姿勢になる。
A 視線の中に入っていることを確認しながら、挨拶すると同時に自己紹介する。
B 今日これから行う作業について説明する。あくまで、放射線治療を行うための位置決め作業であること。シェルというお面を作ること。およそ、30分かかることなどなど。
C Aさまに協力していただけるかどうか尋ねると、2回目に「はい」という返事が返ってきたので、治療計画室に入室し、準備開始。
D 当院では透視で位置を決めた後、ベットの向きを変えてCTを撮影するという方法をとっています。Aさまの場合、不安を感じさせないために、治療計画中はCT撮影時も含めて、そばにいて頻回に声掛けすると共に、体の一部に触れてすぐそばに誰かがいることを感じてもらう努力をしました。
E 結果的に、問題なくいつもと同じように計画は終了しました。
F ご本人に、ご協力いただいて順調に終わったことを告げると共に、お礼を言いました。
G また、出来るかどうか心配されていたご家族(奥様)に、問題なく順調に終わったことを告げ、明日から放射線治療を行う部屋を奥様と一緒に見ていただきました。
H 明日は今日作ったお面をかぶり、位置の確認を行うため今日ほどではないが時間がかかること。今日と同じように協力してほしいこと。明日、待っていることを伝えた後、病室へお帰りいただきました。

 初回治療時も全くこの手順と同じです。当然治療中はAさま一人になりますが、それ以外は出来るだけそばにいて声掛けを行いました。
 初回治療も、問題なく治療が終了しました。
 しかしながら、2回目か3回目の時に一度だけBeam on 直前に、手でシェルをはずそうとしました。MR検査の時は体動が多く、ヘッド・アンド・ネックコイルから抜け出たため1シーケンスしか検査できなかったことを聞いていただけに、やはり放射線治療の継続は無理かと少し思いました。
手順的にはいつも同じで、時間に余裕のある午後、まず挨拶をし、今日も協力していただけるかどうか確認し、入室していただいたのですが、どうも自分の世界に戻られてしまったようだったので、そばに行ってここは何処なのかを聞いて、何をするところなのか説明し、協力してもらいたいことをお願いし、あらためてそばを離れ治療を続行しました。でも、無理かと思ったのはこの1回だけで、その時以外は問題を感じさせる行動はありませんでした。
だから、治療を重ねるたびに、認知症?でないだろうことを実感しました。
また、最初の1週間は看護実習生がついていたので、Aさまは自分だけの世界にいる時間が普通の人より長いので、お話しするときは、目が合うことを確認してからお話しするように説明しました。当然、家族の方にも同じように説明し、自分だけの世界にいる時間が短くなるよう協力してもらいました。
いつも、奥様が車椅子を押して治療に来られていましたが、1回終了するたびに治療が出来て良かったと喜んでおられました。
5回を超えた頃から、ご本人からご挨拶やお礼の言葉をかけていただけるようになりました。しかし、診察の関係で午前中に治療をしようとすると前夜に使用した眠剤のせいか、昼夜逆転しているのか眠そうで別人のようでしたので、リズムを戻してもらうためにはと勝手な判断から治療時間を午前中に変更しました。
それが良かったのか、車椅子から寝台への移動は転倒予防から我々が行っていましたが、15回目頃からは自らすすんでやっていただけるようになりました。
そして、20回目の治療の時に奥様が耳鼻科の先生から手術をするかこのまま放射線治療だけでいくか相談して決めてほしいと言われたので、週末家族で話し合うと教えてくれました。問題行動が多いので、術後管理が難しいとの判断が、放射線治療を重ねることで手術が選択肢に加えられたと個人的には考えています。
最終的にご本人の「どうしても口からものを食べたい。そのためにはどんな辛いことでも頑張る。」との意思を尊重し、手術が決定し放射線治療は根治へむけての縮小作業まで行ったのですが22回で終了となりました。

当院には精神科の先生がいません。すなわち正確な診断がなされたわけではなく、問題行動が多く、こちらの指示が伝わりにくい、意思の疎通がとりくいから認知症?というレッテルを誰かが貼ってしまっただけで、治療の選択肢が奪われてしまったかもしれません。
もともと、問題行動としてとらえた事柄を、ご本人の立場に立って考え直してみると(ここからはあくまでも私の推測ですが)、とにかく口から物が食べたい。でも、病院にいたのでは何も食べさせてもらえない。それなら家に帰ろう。家に帰るには点滴の管が邪魔だ、抜いてしまえ。帰るための着替えは何処だろう、ベッドサイドになければ、廊下か?などなど。
つまり、見方を変えれば、自分の気持ちに素直だっただけなのではないでしょうか? 奥様が帰った後、自分だけの世界に入る時間がさらに長くなるので、こういった行動をしたのではないでしょうか?
忙しい中で時間に追われ、しかも人数の少ない勤務状態の中では、こういったことは問題行動にされても不思議ではないことかもしれません。でも、医療従事者本位ですよね。

最近、患者さまに『すいません』と言わせてしまった後に、心苦しさを感じます。
たとえば、「放射線治療の線がだいぶ薄くなってしまったので、書き足させてください。」というと、多くの方は『擦ってないけど・・・ね』といわれます。この方々は、自分を正当化しようとしているわけで普通です。「消さないように協力していただいているから、この程度でそうでなければ消えてなくなってしまっている。今後ともご協力を!」と説明しています。しかし、一部の方から『すいません』という言葉がかえってきます。『すいません』は悪いことをして責められたことに対する謝罪に聞こえてなりません。こちらとしては、責めたつもりがなくても接遇能力がないのでしょうね、相手にそう感じさせてしまうのですから。
以前は、患者さまに「ありがとう」って言ってもらえるようにと思って患者さまのために頑張っていましたが、結局自分にとって不都合がないようにしていただけなんですね。カウンセラーの資格をとってからは、逆に「ありがとうございました。明日もご協力をおねがいします。」と言わせてもらっています。そして終了した方には、「長い期間、我々とお付き合いいただいて本当にありがとうございました。」と。

僭越ですがこの事例をふまえ、皆さんにも日頃のご自身の対応をもう一度考えてみていただくことをご提案申し上げます。
普段いかに医療従事者本位でことを進めているか、忙しければ忙しいほど「〜しなければならない。」事柄が増え、そのしわ寄せを患者さまに受けさせていることを実感していただければ、患者さまへの対応がかわると信じています。